自社の業務を客観視する

弊社はウェブサイトの企画設計・デザイン・構築までをワンストップで行っています。基本は数人のプロジェクトチームを構成して行いますが、小規模案件の場合はこれらをほぼ1人で行う場合もあります。ですので、ウェブサイト制作に関しては独力で一通りの業務を行えるという自信が各人にはありますし、自分たちの知識や技術には誇りをもっています。

ところがこんな事件がありました。懇意にしているクライアント様から「デザインデータを支給するので、そのデザイン通りに構築だけをやってくれないか?」と言われたのです。私たちが普段やっている業務の中で構築のパートだけを担当するわけです。いつも企画設計・デザイン・構築までやっている私たちからすれば、何の問題もないと考えていました。ところがこれがなかなか大変だったのです。

いざ提供されたデザインデータを見てみると、「ウェブサイトの企画設計をちゃんと経て出てきたデザインではない」ように見えました。つまり「ウェブサイト構築するうえで、いろいろな個所で問題を抱えているデザイン」だったのです。私たちはふだん企画設計・デザインをやっていますから、ついそのフィルターを掛けてデザインを見る癖があります。どうしても問題点が気になって、作業に入る前に、私たちが考えた問題点を先方に指摘せずにはいられませんでした。

そこから担当デザイナーさんを交えたミーティングが始まったわけですが、話が平行線で煮詰まりません。なぜ平行線かと言えば、そもそもウェブに対する考え方が違っていたのです。担当デザイナーさんはおそらくですがブランディングを得意とされている方で、ウェブサイトはブランディングを投影する媒体のひとつと考えておられるようでした。ブランディングありきですので、ブランディングから派生したウェブデザインを、自分の意図通りに100%再現してくれればそれでよいというお考えだったように思います。

それに対して弊社は、HTMLやCSSなどのコードフレンドリー、WordPressなどシステムフレンドリーなデザインを志向します。純粋にデザインだけを考えるうえで、コードやシステムは成約要因なので邪魔な存在ですが、それを否定してしまってはウェブではないし、システムはお客様にとって有益ですので、システムも否定できません。それら制約要因の中で、どこまでデザインを追求できるかが私たちの腕の見せ所だと思っています。

つまり、私たちはコードフレンドリーなウェブデザインを志向するのに対し、今回のデザイナーさんは純粋にブランディング(自分の意志)をプリントしたウェブデザインを志向されていたのだと思います。出発点が違うので、話が噛み合わないわけです。

最初はその違いに苛立つのですが、ふと考えると私たちもこうしたカルチャーといいますか、弊社の常識の中で仕事をしていたんだなと強く思いました。不自然なコードを書かなくてはいけなかったとしても、それだけでデザインを否定することはできません。デザイナーさんの描写した絵をそのまま描写するコーディングも正しいわけです。それをジャッジするのはクライアントだと思います。

他者と協業しないと、こうした思い込みに気づくことはなかったでしょう。外部のデザイナーさんは異なるカルチャー、異なる視点でウェブを見ているかもしれないし、異なっていることを当然と思って受け入れるべきだったと思います。何事も経験してみるものだなと思いました。